副鼻腔炎の保存的治療と手術

急性副鼻腔炎
風邪がこじれて副鼻腔に炎症が波及したものです。透明の鼻水から黄色いドロッとした膿性の鼻汁となったら要注意です。頬っぺたや目の奥が痛くなります。鼻の粘膜が脹れて、副鼻腔と鼻腔との交通が遮断されたために、副鼻腔に膿がたまっているのです。最近、効果的な薬が多く発売されています。その内服により症状は劇的に改善します。治療がうまくいけば、4~5日で痛みは軽減します。それから、鼻の粘膜の脹れがとれて、鼻腔と副鼻腔の交通が再開すれば、副鼻腔にたまっていた膿什が鼻腔に出てきます。膿什が出なくなったら治癒です。この間、発症から10日~2週間です。痛みが取れて、治ったと自己判断して治療を中止すると、二~三週間後に再発して、また痛みがでることがありますので、しっかり治してください。薬が投与されて、4^5日経っても、一向に痛みが取れない時には、薬を変えるか、時に抗生物質の点滴投与が必要となります。上眼瞼が赤く脹れているようであれば、重症ですから、CTをとって、最初から、点滴治療が必要です。

慢性副鼻腔炎
鼻汁と鼻ずまりが三か月以上続いているときには慢性副鼻腔炎(俗にいう蓄膿症)と診断されます。多くの場合には、急性副鼻腔
炎が治癒にいたらず、炎症が遷延化することが原因です。病気が慢性化するのには、鼻中隔弯曲症等の鼻の通りを悪くさせる原因があったり、喫煙等の生活習慣に何らかの原因があるものです。投稿サイトに、慢性副鼻腔炎の患者さんの投稿があり、副鼻腔炎の治療に通っているけれど、70%位は改善しているけれどまだすっきりしないので転院すべきかというという質問に、どこで治療してもやっていることは同じだから,そのまま治療したらどうですかというのがベストアンサーになっていました。どこの耳鼻科で治療しても70%ぐらいの治療効果はあるということでしょうが、残り30%を改善させて患者さんを満足させることができるかどうかは、その耳鼻科の創意工夫にかかっていると思います。見た目は同じに見えるラーメンでも、スープはその店の秘伝のもので、そのスープこそがその店の人気の秘訣です。人気店には煮卵やチャーシューにまでその店の創意工夫があるものです。慢性副鼻腔炎の治療には、保存的治療と外科的治療があります。

保存的治療
薬の内服とネブラーザーによる薬液の吸入療法が主体となります。鼻の周りにある副鼻腔という空洞それぞれが小さな穴で鼻腔と交通していて、本来副鼻腔には空気が入っていて、その中を蔽っている粘膜には粘膜繊毛輸送機構と呼ばれる自浄作用があります。治療の目的は、鼻腔の粘膜の脹れを軽減させて、鼻腔と副鼻腔の交通を改善させて、副鼻腔に空気を送り込み、たまっている膿汁を副鼻腔から鼻腔へと排出させ、副鼻腔の粘膜が本来有している粘膜繊毛輸送機構を回復させることにあります。しかし、慢性炎症でいったん障害された粘膜を修復させるには、3~6か月を要します。患者さんが治療効果を自覚するまでに、少なくとも3~4ヶ月を要することも少なくありません。鼻の粘膜の脹れがひどかったり、鼻茸という粘膜の浮腫がひどくなって発生する水羊羹みたいなできものがあると、薬液吸入によって鼻腔の隅々の粘膜にまで薬液を噴霧することができないので、良い治療効果が期待できません。ネブラーザー治療を受ける前に、浮腫んだ鼻粘膜を薬液でしっかり収縮させておく必要があります。鼻茸がある場合には、鼻茸の奥には薬液を噴霧することはできないので保存的治療を行う前に、鼻茸を外科的に摘出しておくことも必要となることがあります。当院では、鼻粘膜収縮させる薬液を噴霧した後で,超音波ネブライザーで粘膜を収縮させる薬液を吸入した後で、さらに抗生物質の入った薬液を吸入してもらっています。粘膜の脹れがひどい患者や膿汁がひどい患者さんには,ㇷ゚レッツ置換法という治療を行っています。鼻の粘膜を収縮させて、下図のような体位をとってもらい、薬液を直接鼻のに注入します。発声させながら、鼻腔に陰圧をかけます。この体位を五分間持続してもらいます。起き上がって薬液排出させた後で、超音波ネブライザーで二種類の薬液を噴霧します。
手術療法
最近では、衛生環境が向上したためか、鼻から垂れるような鼻汁をきたしている患者はほとんど見かけなくなりました。下に示す上段のCTは、ほぼ正常所見です。病変は、中段のCT所見のように前頭洞と前篩骨蜂巣に見られる患者が多くなりました。このような患者では、嗅覚障害と頭痛を訴えることが多いですが、保存的治療が奏功しないことがあり、局所麻酔で内視鏡下に副鼻腔を開放する手術を行うことがあります。この症例の場合には、両側で一時間ぐらいの局所麻酔下の日帰り手術です。上顎洞や蝶形骨洞にも病変があると両側で1時間から1時間30分ぐらいかかります。手術の目標は、すべての副鼻腔を開放して鼻腔と交通させることにありますが、解放した副鼻腔の粘膜が本来ある自浄作用を有する粘膜にまでに回復するまでには、3~6ヵ月を擁しまので、その間、マクロライド系の抗生物質の内服、ㇷ゚レッツ置換法とネブライザー吸入療法を行います。
当院で、局所麻酔下に、副鼻腔手術を行っている理由は、手術操作が確実で短時間で目的を達することができるからです。手術時間が長いと,長く同じ体位でいることができないために、全身麻酔での手術が必要となります。また、局所麻酔での手術は、手術操作における危険部位近くで、患者さんが異常な痛みを訴えることができるので、手術による損傷を回避できるという利点があります。局所麻酔の手術でも、しっかり要所に麻酔すればそんなに痛みはないものです。局所麻酔で手術を行うことで、日帰り手術可能となり、一週間ぐらいの入院を必要としなくてもよいのです。毎週、土曜日の外来が終わってから、午後2時40分ごろから一例から二例手術を行っています。
術後のCT所見を下段に示します。


一側性上顎洞炎
一側性に上顎洞に炎症所見を見るときには、教科書的には、歯源性の炎症、真菌症、腫瘍性病変を疑うとされています。CT検査は必須です。多くは、手術による上顎洞の開放術を必要とします。下に示すCT所見は、上顎洞の自然口が炎症により閉塞して、上顎洞内に臭い膿がたまっていました。上顎洞の開放だけならば、手術時間は約30分です。

慢性咳嗽(長く続く咳)
八週間以上続く咳を慢性咳嗽と呼んでいます。その原因には、多くの病気があるのですが、慢性副鼻腔炎も注目すべき疾患として取り上げられるようになりました。慢性気管支炎や気管支拡張症の患者の約50%、びまん性汎細気管支炎の患者にいたっては約80%に慢性副鼻腔炎を合併しているという報告があります。上気道病変と下気道病変が深くかかわっていることから、副鼻腔気管支症候群という病態が提唱されています。慢性副鼻腔炎患者においてもその約5%に気管支病変を合併しています。そのほとんど副鼻腔炎の罹病期間の長い中年の人です。咳の原因は、後鼻漏と言われる鼻汁が鼻からのどに流れて、それを気管支に吸い込むことによるとで咳が出ると考えられてきましたが、最近ではそれだけではなく上気道から下気道にいたる粘膜の機能障害がかかわっていると考えられるようになっています。気管支の病変を進行させないためには、しっかりと、副鼻腔炎の治療をすることが大切で、時には、手術が必要となる事があります。
慢性閉塞性肺疾患(COPD)という疾患が最近注目されています。20~30年以上にわたって多量のたばこを吸ってきた人の15~20%に発症すると言われており、40歳以上の人の8.6%、約530万人の患者がいると推定されています。全体では、死因の9位,男性では7位です。進行性の病気で、現在のところ完治しません。労作時(歩行時や階段昇降時など)の呼吸困難や慢性のたんがらみの席が症状です。進行すると、酸素吸入を必要とします。喫煙歴の長い人は、気管支病変が慢性化しやすくなりますから、症状を悪化させないためにも、副鼻腔炎のある場合には、しっかりと治療しておくことが必要です。
最後に、咳が出ているので咳止めをくださいという患者さんがいますが、咳は、肺にたまっている痰を体の外に出す体の大切な免疫反応です。咳を止めただけでは、痰が肺にたまってますます病気は悪くなります。よって、咳の原因をしっかり診断してもらって、咳の原因をしっかり治療しながら、必要によっては咳止めを併用することが大切なことです。咳一回で2kcalのエネルギーを消費するといわれていますから、咳をすると体力を消耗するのです。しっかり休養して、栄養を取って体力を回復させてください。

小児副鼻腔炎
そもそも、副鼻腔が形成されるのは、2歳ぐらいからで、4歳ぐらいになってやっと海がたまる位の大きさの空洞に発達します。それぞれの副鼻腔は小さな穴で鼻腔と交通しています。6歳ぐらいまでは、この穴が大きいので、副鼻腔の炎症が慢性化することはまれです。小学生になると、頭の骨が発達してくるとともに、副鼻腔の入り口の穴が小さくなり、副鼻腔の炎症が慢性化する傾向になります。小児では気道の免疫系が未熟で、鼻腔や気管支が狭く、粘膜が有する繊毛機能が未熟であることを考慮して治療費当たる必要があります。鼻汁が鼻の奥に慢性的に溜まった状態が続くと、アデノイドの近くで細菌が増殖しやすくなり、遷延化した感染がアデノイドの肥大をきたし、ますます鼻の通りが悪くなって、鼻炎や副鼻腔炎が治らないことになってしまいます。アデノイドの肥大や鼻の後ろにたまる鼻汁は、繰り返す中耳炎の原因になります。鼻がかめない乳幼児においては、鼻汁をしっかり吸って、鼻の粘膜をしっかり収縮させて、鼻がよく通るようにして、ネブライザーで薬液を鼻の隅々まで噴霧させることが必要です。時に子供は泣いてしまいますが、そういうことが理解できない親は、ひどいことをする先生だと言って怒って帰り、時に口コミサイトにひどい書き込みをしてくれます。しっかり治そうとしているものにとっては悲しい事です。先生はしっかり治してくれているのだから頑張ろうね、という親から子供への優しい励ましは大変ありがたいものです。二~三回通ってくるとたいていの子供は慣れて泣かなくなるものです。最近、幼くして集団保育の機会に遭遇する乳幼児が増えてきました。半年は、鼻炎や副鼻腔炎、中耳炎を繰り返しますから覚悟してくださいと言っています。感染を繰り返すことで、ウイルスや細菌に対する免疫力を養っていくのです。しかし、鼻汁をしっかり吸ってその都度病気を長引かせないで完治させて、また次の病気に備えるようにすることが大切です。3歳ぐらいになると家のごみやダニが原因と思われるのアレルギーの子供が増えてきますから、アレルギーの治療も必要です。6歳ぐらいまでは、副鼻腔と鼻腔は大きな穴で交通しているので、仮に副鼻腔炎になったとしても鼻腔の炎症がよくなれば、副鼻腔炎が遷延化することはないので、小児副鼻腔炎と呼んで慢性副鼻腔炎(蓄膿症)と区別して扱っています。小学生になると、慢性副鼻腔炎になることがありますから、要注意です。鼻汁としっかり吸ってちゃんと治療していきましょう。


当院のネブライザー治療
当院の秘伝のスープのレシピを紹介します。ネブライザー治療は、直接患部に薬を到達させることができる処置で、耳鼻咽喉科の診療では、薬の投薬とともに重要な治療です。当院では、オリーブの吸引管という、先が紡錘形になっているガラスの吸引管を使っています。吸引管の先が鼻の入り口にピッタリ密着できるため、しっかり鼻汁を吸引することができ、透明なので吸引する鼻汁が透明なのか色がついているを観察できます。透明の場合には、アレルギー性鼻炎か 風邪のひきはじめ(ウイルス感染による鼻炎)であろうと判断します。この場合には、原則として抗生物質の内服は必要ありません。鼻汁が膿性(薄茶色)の時には、細菌感染が起きていて白血球の中の好中球がばい菌を殺している状態ですから、抗生物質が必要となります。ネブライザーの前処置として、まず、鼻汁を吸います。次に、スプレーで鼻の粘膜を収縮させるボスミンという液を粘膜に吹きかけます。これで、鼻の中が広がります。さらに、もう一度オリーブの吸引管で鼻汁を吸い取ります。舌圧子という金属の棒で咽を観察して、その棒を鼻の下に充てます。鼻で息をしてもらい、金属の棒が曇れば、鼻が通っていることかわかります。鼻が十分とおっていなければ、もう一度ボスミンのスプレーをして鼻汁を吸って、さらにもう一度金属の棒を鼻の下に充てます。鼻が通るようになるまで数回繰り返すことも稀ではありません。必要によっては、先にボスミンのついた綿棒を直接粘膜につけて鼻の粘膜を収縮させます。そこまでしてやっと、ネブラーザーの前処置が完了します。多くの耳鼻咽喉科医院で使用しているジェット式のネブライザーは薬液の粒子が大きく、粒子を直線的にしか噴射することしかできないので、鼻の粘膜隅々にまで薬液を噴霧するとはできません。当院では、超音波ネブライザーを使っています。超音波ネブライザーでは、薬液の粒子が小さくて、霧のような状態になるので、薬液の粒子を鼻の隅々まで到達させることができます。最初は、プリビナという粘膜を収縮させて鼻の通りをよくする薬液を吸入します。最後に、ベストロンという抗生物質の入った薬液を吸入します。ここまで手をかけて、ネブライザー治療が簡潔します。ただ外から見ていれば、ほかの耳鼻咽喉科医院と同じたと思われるかもしれませんが、ネブラーザー治療に、ここまで工夫を凝らして治療しています。